融資先に経営者保証を求めない動きが広がっているとの報道があります。いよいよ広がってきたかと期待を持ってよく見ると、日本経済新聞の当該記事(23年5月9日)によれば、14行が該当します。第一地銀63行、第二地銀37行、合計100行のうちのわずか14行です。
1 金融庁がしびれをきらしている?
記事内容も中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルールとしての「経営者保証のガイドライン」(一般社団法人 全国銀行協会、日本商工会議所の各ホームページに記載あり)と何ら変わりはなく、それへの各行の対応はいたって妥当な動きです。
しかも新規融資についての話で合って、既存融資につけられている経営者保証が外れる事例の紹介ではありません。
なかなか成長性評価が進展していかないこと等に金融庁がしびれをきらして書かせた記事ではないかなどと邪推してしまいそうになります。
2 体験者からのお声
NHKのドラマにもなったダイヤ精機株式会社の諏訪社長のお声を紹介します。これは諏訪さんが過日発信した内容です(その一部を抜粋します)。
「中小企業の経営者になると決断するという事は、出口のないワンウェイを突き進むしかないという事。もう後戻りは出来ないと言うプレッシャーがのしかかる。それは、先代の借り入れに対して連帯保証をしなくてはならないからでした。何故?
それは、おかしな話である。
私は父の財産を放棄し、株と同時に借り入れを買取る形になった
企業と個人は別であると考えてきた私には、到底納得のいかないものです。結局、この件で2年に及びメインバンクと交渉をしました。
何故なら、連帯保証は足枷にしかならないからです。足枷があると守りに入ります。経営は守りに入ったら企業は成長できません。
何故、借り入れをする際に連帯保証と言う個人の人生を捧げるようなことをしなければならないのか?何故事業性評価をしてくれないのだろうか?何故?が沢山ありました。
そして、この19年色々な経営者を見て来ました。
廃業をすると、自己破産をする経営者が未だに多くいます。
今まで、社会に貢献してきたにも関わらず、最低レベルの生活しか出来ず、クレカさえ数年作ることが出来ません。何故、中小企業の経営者はそんな罰のような事を受けなければならないのか? 貸す側にも責任はあるはずなのに?」
3 まだあるおかしなこと(経営者保証の見直しの穴)
諏訪さんのご尽力等もあり、経営者保証の見直しが緒についたのですが、廃業等にあたってはまだおかしなことが残っています。
直近の私のコンサル事例を通じて、経営者保証の見直しの穴に気が付きました。
まず改めて言うまでもなく経営者保証のガイドラインの3要件が厳しすぎる点です。
3要件とは、①法人と代表者個人の資産等の分離、②法人のみの資産や収益力で返済が可能、➂適時適切に財務情報が開示
業況の悪い時に上記①、②を満たせる企業はあるのでしょうか?企業経営がずっと右肩上がりでない限りは机上通りにはいかないです。
つぎにこの3要件を満たしたとしても、融資を返済の時に、保証履行後も保証人の手元に残る資産等の定義が厳しすぎて足枷になるということです。
保証履行後も保証人の手元に残る資産等として、「金融機関は、「華美でない自宅」について、経営者の収入に見合った分割弁済をする等により、経営者が自宅に住み続けられるよう検討」とガイドラインにはあります。
それなりに資産価値があると華美でないとはみなしてもらえないでしょうし、今後静かに増えそうな廃業をするような場合に、経営者の収入は多くをあてにできません。しかも、経営者の自宅に根抵当権がついている場合のことはガイドラインに記載されていないのです。
健全にチャレンジングな社会、起業家精神旺盛な社会に変えていくというのであれば、一段と踏み込んだ内容に改定されていくことを期待している次第です。